その他 2024.11.08
入 賞 |
ア「調査、設計、監理の各業務部門で優れているもの」 |
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奨励賞 |
ア「初めての工事主任として担当した業務が優れているもの」 |
入 賞 |
イ「報告書作成、保存図作成の業務のいずれかが優れているもの」 |
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奨励賞 |
ア「初めての工事主任として担当した業務が優れているもの」 |
入賞 ア 重要文化財日御碕神社神の宮(上の宮)鳥居(西)保存修理工事
立地が境内の外の公道であることから関係者も多く、調整には苦慮したものと想像される。「その他」扱いを受けるような案件かも知れないが、その案件としっかりと向き合い、文化財としての実態解明に取り組み、破損要因の把握とその対応策を適切に選択し、事業を完了させている。発掘調査に伴い、基礎構法を解明できたのは、発掘担当者との協調があったからと思われる。耐震補強の面では、文化庁とのやりとりを繰り返し行い、解決に向けて努力がなされた。非駐在で補佐もいないなか、修理工事報告書まで期限内に刊行されたことは高く評価でき、入賞に値する。
入賞 ア 重要文化財阿蘇神社一の神殿ほか5棟保存修理工事
熊本地震による災害復旧である。一の神殿などは平成30年度までに復旧したが、楼門は倒壊という甚大な被害だったので、令和元年から5年度までの長期の工事となった。
楼門に関しては、倒壊した建物を丁寧に解きほぐし、高い再用率で復旧させた。特に、柱や化粧隅木など折損した主要部材が数多くあったなか、それらの再用技法の検討を行い、実施に移した点を高く評価したい。また、地域への情報公開や多数の見学機会提供の実績も重要であり、リーフレットもよくできている。総合的に完成度の高い修理工事として評価でき、入賞に値する。
奨励賞 ア 重要文化財熊本城監物櫓(新堀櫓)保存修理工事
熊本地震による災害復旧であり、城内では2件目の修理完了物件となる。災害直後の混乱のなか、解体格納工事は、急かされるような工事であった。国指定史跡内での修理工事であり、石垣との調整には、通常の修理とは異なる困難があった。事業者は公共団体であり、注目される熊本地震の復興事業でもある。解体と組立で請負業者が変わり、また、担当主任は、解体時には主任補佐の立場から組立時に主任として引き継いだ経緯もある。構造補強として行った面格子も、実施においては様々な検討が必要であったと思われ、工事に伴う調査によって新たな価値付けもなされた。修理工事報告書の編集も初めてであったなか期限内に刊行できた。上記を考慮すると、新任主任としては、十分に評価できる事業運営であり、今後に期待して奨励賞としたい。
入賞 イ 重要文化財旧東慶寺仏殿・臨春閣・月華殿保存修理工事報告書
事業名称は「重要文化財臨春閣第一屋ほか4棟」であるが、修理工事報告書の書名は「旧東慶寺仏殿・臨春閣・月華殿」となっており、旧東慶寺仏殿を中心にする、という著者の意向が表れている。
旧東慶寺仏殿は、寛永11年の建築であり、その建築経緯には諸説あったが、建築前年に自害した徳川忠長邸の部材を大量に再利用していることを究明し、それを写真や挿図を駆使して丁寧に報告している点は、学術的にも大きな成果であり、賞賛に値する。考察も論の展開と資料が適切に配され、わかりやすい。しかし、臨春閣や月華殿に割かれた割合が少なく、書きたいところを書いたというイメージもあり、バランスを崩していると感じられた。また、オールカラーの編集もわかりやすいが、修理前写真までをすべてカラーとすることに対しては、疑問が残るという意見もあった。
いろいろと挑戦的な修理工事報告書となっており、その姿勢の善し悪しについては議論を巻き起こすに値するところだが、内容については大変優れていることに意義はなく、今後への期待も込めて入賞としたい。
奨励賞 ア 重要文化財阿蘇神社一の神殿ほか5棟保存修理工事報告書
現場運営でも高い評価を得たが、修理工事報告書も、オーソドックスに作りながら、必要十分を満たしており、安心して読める。構造解析と耐震性検討はカラーを駆使し、説明図版も素屋根組立ステップ図や組物の分解図などを作成し、丁寧に説明しようとする姿勢には好感が持てる。簡単ではあるが、現場公開についても記され、災害からの復興を象徴する注目を浴びる事業であったことがわかる。
ただ、構成部材調書はここまで小さくするとさすがに見にくい。先行して刊行された修理工事報告書はあるが、全体事業や神社の概要の部分は、単体の修理工事報告書となった場合は、重複となっても記すべきである。また、挿図目次がないのが残念な面もあるが、さらに今後に期待し、奨励賞としたい。
奨励賞 ア 重要文化財熊本城監物櫓(新堀櫓)修理工事報告書
全体にコンパクトでまとまりのある修理工事報告書となっている。初めて手がける修理工事報告書は、ともすれば主観的になりがちなものであるが、言葉を選んで事実のみを端的に客観的に記しており、図や写真も豊富で、修理記録としての役割をよく理解していると感じる。調査についても、先達の成果を検証し、さらに新たな知見を加え、よくまとめている。工事写真は実施仕様の文章と一緒に編集され、わかりやすい構成になっている。昭和28年~30年の刊行されなかった修理工事報告書の草稿が掲載されたことも評価できる。
ただ、補強案を検討する過程が省かれており、委員会の議論など、その経緯がわからないのが残念である。解体前の状況を見る限り、傾斜は大きいものの高石垣と共に倒壊せずしっかりと自立した状態で存続しているように見えるので、地震による破損の特徴や解体修理に至った理由などに焦点を当てた報告が欲しかった。
とはいえ、全体としては丁寧に構成されており、新任主任が手がけた災害復旧の修理工事報告書として高く評価でき、奨励賞としたい。